2021年4月18日、神田。
本編も終盤に差し掛かっていた。
曲間の一瞬の静寂の後、4カウントを皮切りに会場中に響き渡る激情的なイントロが胸を揺さぶる。
未発表の完全新曲がゲリラ的に初披露される瞬間というのはいつでも心揺さぶられるものだが、この曲は並外れていた。
イントロが終わる頃にはもう感情が溢れていた。

シーズンが終わるとラグビー部も次年度の新歓に向けて本格的に動き出す。
趣味に毛が生えた程度の動画編集経験しかないままPV作成担当になってしまった筆者だが、案外動画全体の構想自体は(楽曲のイメージに思いっきり乗っかることにより)ぼんやりと浮かんでいたものがあった。
ただ、1つ問題があった。歌詞である。(そもそも代々PV作成で引き継がれてきた傾向としては、歌詞イメージが動画内容に過度に介入するのを防ぐため、洋楽を使用することが推奨されていた。)
『OUR COLOR』のサビの最後には、「一つにならなくても」というフレーズが印象的に繰り返される。

一つにならなくても。

列島がラグビーワールドカップに沸いた2019年の新語・流行語大賞「ONE TEAM(ワンチーム)」に代表されるように、ラグビーに限らずとも、チームスポーツでは一般的に「一つになる」ことが標榜される。
この歌詞はPVを作るにあたり何か誤解を招くものにならないだろうか。そんな思いを抱えたまま年を越え、冬オフも終わりを告げた。公開は3月の合格発表日に間に合わせねばならない。

今年度、新歓を中心となって行う代になり、特に未経験者に向けて、ラグビーの魅力について話す機会というのが増えた。改めて考えることになった。ラグビーの魅力とは。
筆者自身ラグビーが上手い訳でもなければ特別好きという訳でもない。
それでも今年度一橋大学に入学した新入生に対しては一応大学の先輩であり、未経験者に対してはラグビーの先輩でもある。
大学でラグビーをする者の端くれとして、この春PVを作りながら(というか作るために)筆者が考えたことを書き残しておこうと思う。

1. 競技特性(“ラグビー”について)

今君の見てる世界の色を知りたいけど
ここからじゃ思い描くしかない
回る毎日の風景も心の景色にも
触れてみたい君の温度も

ラグビーは、1度にフィールドに立つ1チームのプレイヤーが15人と、主要なスポーツの中ではかなりの競技人数の多さを誇る。そのため、ポジションごとに役割が細分化されていると筆者は感じている。パス、キック、タックル、ヒット、ステップ、ラン。スキルだけでも実に多くの要素がある。もちろん全てできるに越したことはない。しかし、そんな幼い頃からスポットライトを浴びてきたようなスポーツ万能な人間は、普通ラグビー部には来ないものである。(推薦を取らない国公立大学であればなおさらである。)
ラグビーにおいて1つのポジションで求められる能力はそれほど多くはない。裏を返せば、他の能力が高くなくても、何か1つ武器があるだけで戦えるのだ。これは、高校や大学で新しくラグビーを始めようと思っている人、特に運動神経が特別良い訳ではなく、それまでの人生でスポーツで成功した経験が無いと感じている人に声を大にして言いたいことである。
この競技特性もあって、ラグビーと一口に言っても、その内実はとにかく多面的だ。殊に、フォワードとバックスなんてほとんど別世界だ。
試合では、フォワードがスクラムやモールを組む時、ゴール前でピックゴーを繰り返す時、バックスはフォワードに託すしかない。逆にボールが出て外に展開されれば、バックス同士の勝負となる。
練習でも、後半はフォワードとバックスに分かれてのユニット練習に豊富に時間が割かれ、その後の個人練習ではさらに各人がそれぞれ必要なスキルを磨く。
文字通り、毎日の風景の中で見ている世界が違うのである。
チームメートのそれぞれの場所での奮闘ぶりについて、私たちは実際に経験することはなく(ともすれば目にすることもなく)、思い描くしかない。だからこそ、チームメートの立場を想像し、理解し、尊重することが他のスポーツ以上に求められるのではないか。

2. 団体特性(“ラグビー部”について)

この目には君と別々の日々が
誰もが自分の世界の中で
生きてはいるけど

ラグビー部が多種多様なのはグラウンドの中だけではない。
まず、他の部活にも共通することであろうが、マネージャーの役割は大きい。
その業務はグラウンド上で練習と一体となって行われるものばかりではなく、グラウンド外での会計や広報といったマネジメント業務、テーピングを始めとするトレーナー業務など、様々なフィールドでそれぞれの戦いがある。
また、ラグビー部では、資格試験のための勉強やその他課外活動に一時的に専念したいと考える部員を応援し送り出す伝統がある。
グラウンドに残った者は部活に、送り出された者はそれぞれの活動に全力で打ち込む。
ここで私たちは別々の日々を送ることになる訳だが、これは必ずしも離散する、人数が減るといったネガティブなことを意味しない。多様性が制限され束縛されるよりも、多様性が存在している方が、組織としての結合が健全に強化される側面もあるからだ。背景を異にする集団がそれを乗り越えて団結した時のエネルギーは凄まじく、それはまさしく私たちがラグビーワールドカップで目の当たりにしたことである。ただ単一であるのではなく、違いを乗り越えてこその「ONE TEAM」なのだ。

3. 結び

これまで述べてきたように、グラウンドの内外に関わらず、
私たちの戦うフィールドは、プレーは、仕事は、
決して一つにはならない。

それでも勝利の瞬間、全員が平等に報われる。
違うからこそ、平等に報われるのだ。

隣で見上げた青の深さが違くても
重なる心震える
一つにならなくても

なんだ。「一つにならなくても」は、
我が部のスローガン “Honor is Equal.” と同義だったではないか。

結論としては、
・ラグビーというスポーツ、ラグビー部という団体には、唯一無二の魅力的なCOLORがあること。
・B.O.L.Tの楽曲は、感動的なサウンドとメロディ、私たちの人生に寄り添う歌詞、それを歌う尊い推しの三拍子揃ったこの世の全てであり、全人類聴くべきであるということ。
この2点である。

(作詞作曲:渡辺裕貴(SonoSheet)
 2021年 B.O.L.T「OUR COLOR」からの引用)

———-

これにて今年度の3年生の部日記は終了です。
勘の鋭い方は半数近くの3年生の更新がまだであることにお気づきになるかもしれません。彼らの部日記を心待ちにしていた皆様には大変申し訳ないのですが、彼らの部日記は「どうしても思いつかない」という「やむを得ない」理由により見送られてしまいました。残念です。次回作(引退作?)にご期待下さい。
幸いここに至るまでこの文章を誰が書いているかを明示しておらず、また想像もつかないであろうと思われますので、この文章をもって残りの3年生の総意とさせて頂きます。(からかさ連判状みたいなことを言いよる)

次回からは1年生にバトンが渡ります。
トップバッターは岩澤です。努力の虫で、既にチームの輪の中心でポジティブなオーラを放散してくれています。同期にも先輩にもよく気が効く良いやつです。よろしくね。

誰だか分からなくなるので部日記は名乗ってから始めてください。